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時事問題 : 個人と国家の賠償問題
投稿者 : admin 投稿日時: 2017-08-19 (197 ヒット)
1 韓国のムン大統領が賠償合意をした当時知り得なかった損害であるから、個人請求権は消滅しないとのコメントを発表しました。
 日本の民法では、不法行為法においては、当時知り得なかった損害賠償請求については、行為時から時効が発生しないことになっているため、このムン氏の発言は、不法行為を念頭においての発言で、一見、言い分があるように見えます。

2 70年以上前の損害賠償請求ができるのか

 しかし、我が国の不法行為法では、知ったときから3年だけでなく、行為時から20年経てば時効にかかるため、損害賠償請求はできません。不法行為については、何年経っても損害賠償請求できるのであれば何年経っても法的安定性が図れないので、世界的にも不法行為も一定の時効にかかるとしている方が多いはずです。
 なお、韓国の裁判所に係属しているのは、どうも賃金請求のため、我が国では賃金債権は2年で時効になる関係上(なお2年で時効にかかりますが、労働債権に限り付加金という裁判上の制度を使えば請求額の2倍まで認容されます。また会社が倒産しても一定の条件はありますが、国による立替払制度があったりするので、我が国では、どちらかと言えば、一般債権より手厚く保護されているとも評価できます。)、全く問題にならないという結論になります。
 余談ですが、先日国会で成立した、改正民法(施行は3年後)では、債権の時効は、知った時から5年または権利行使可能になった時から10年と状況によっては短くなりますが、労働債権の時効に変更はありません。不法行為の時効も変更されません。

 では、ムン氏がいう戦時の特殊性を問題にできるのか
 過去に、日本が韓国に巨額の賠償金を支払いつつ、賠償金を個人に分配していないわけですから、韓国政府が、特別法を作り、韓国政府自ら、当該個人に賠償を行うことは、可能です。
 ムン氏が言うように、徴用労働に対して個人的請求権が消滅していないというのであれば、日本から巨額賠償金を獲得した韓国政府こそで、韓国の国内法を整備して韓国民に対して賠償する義務があるわけです、正確に言えば。
 そもそも、韓国は太平洋戦争の相手国ではなく、我が国と交戦した事実はありません。この賠償金は、植民地政策に対する賠償金であり、戦時法は、日本本土と同様、植民地においても適用され、戦時国内法の下、徴兵、勤労の義務が課されました。問題になっているのは、その法制に基づく労働の対価を請求できるのかということです。
 日本政府が、本土と同様に植民地においてもなした国策すべてに対して巨額賠償した以上、それ以上のことを望むというのは、国際公法の概念を大きく逸脱します。

 ムン氏は弁護士とのことです。しかし、国際私法と国際公法はその枠組みで重複しますが、その考え方は異なります。
 国際公法は、時に、国家という枠で国民の権利を守り、また国民の権利を代位する役割を担いますので、国民を代表・代理して国家間の取り決めを行うことができます。その意味で、国家間の合意は、当該国民の権利を制限することができます(その制限を受けた当該国民は自国政府に対して賠償を求めていく枠組みで、整合性が図られます)。
 にも関わらず、ここで私法の不法行為の理論を持ち出した時点で、おかしいということになります(賃金請求であることは一旦無視します)。

 ちなみに、戦中戦後のどさくさの出来事に対する個人請求権が未だに保護されるのであれば、朝鮮という植民地にある財産を放棄させられた日本の国民の方が剥奪された財産はよほど大きいわけですから、請求権は遙かに大きいはずです。
朝鮮半島の日本国民は、韓国政府の下、民事上の損害賠償請求を全面放棄された形になっているわけですから。

 一連の騒動は、日頃、国際公法に触れることのない、弁護士らしい発言とも言えますが、今一度、国際公法の観点から、賠償に関する一連の合意内容(条約)を、きちんと確認して欲しいところです。
 
 過去の経緯、国際公法から離れて、過去に国際公法上解決済みの問題を、韓国内の立法政策の問題として対応するならばともかく、国際公法と国際私法の問題を混同し、時効問題を無視した超法規的な賃金請求、損害賠償請求が正当かのように、私法の不法行為の理論を展開するというのは、弁護士としても、条約の相手方である国家元首としても、いかがなものかと個人的には思います。

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