家族法改正とその対策 その1

投稿日時 2013-11-04 | カテゴリ: 時事問題

先日の婚姻外子(非嫡出子)の相続分1/2を定めた民法900条の違憲判決により、家族法の改正が必至となりました。ここ数年、何件か合憲判決が出てからの、ようやくの違憲判決であり、関係者悲哀こもごもと言ったところでしょうか。

 さて、民法改正議論は、もともと債権法の大改正が本命で、改正作業が着々と進みつつあるのですが、違憲判決により、債権法より早く家族法の改正がなされることになるのでしょうか。
 今回の家族法の改正により、必ず改正が予定されるものとしては、出生において差別されるべきではないということで、父または母を同じくする場合には、父または母の相続に関して、取扱いを平等にするということになります。
 つまり、
1 認知された子の扱い
 実親の相続に関し、他の子と区別されることなく法定相続分を有することになることが固まったわけです。
 扶養義務については、以前から摘出子と同様扶養義務があるので、変わりありません。
2 認知されない子の扱い
 これに関しては認知がない関係上、相続分は発生しません。但し、死後認知の制度等があるのでそれで救済することになります。
 憲法違反が出た後の、最近の東京家裁の審判決定の例はこれでしたか。
 子ができても結婚しないカップルには、それなりの理由があるため、最初から認知はするが婚姻はしないというケースは、あまり見かけません。逆に言えば、婚姻に至らなかった理由が深刻で、認知なんてとんでもないと拒む場合もあります。ですので、両親の感情的な対立が問題にならない死後認知は、実は割と想定できる認知制度の一つとなろうかと思います。

 ちなみに、認知の訴えが親子関係を認めさせる裁判で、それと対極にあるのが、親子関係を否定する裁判、親子関係不存在の訴えです。
 親子関係不存在の訴えについては、生物学的な問題だけではなく、社会生活上の責任・義務の問題が発生しますので、子の福祉の観点から、生物学的な親子のつながりがないからと言って直ちに親子関係は否定されません。その点、子の福祉という配慮が不要な、子からの親子関係不存在の訴えに関しては、社会生活上の実態を抜きにして、不存在が認められやすくなるわけです。

3 父または母を同じくする兄弟姉妹の相続の取り扱い
 900条4号は子がおらず、親死亡後の兄弟姉妹の相続についても記載があり、同じ兄弟姉妹であっても、どちらか一方だけが同じの場合には、相続分は1/2になります。
 実親の相続の際の1/2とは異なり、片方だけ同じくする兄弟姉妹の相続を、両方同じくする兄弟姉妹と同様に扱うべきかという父母両方の血統の問題なので、片方だけが問題になる出生の平等とは違う問題があります。
 認知、再婚前後の子同士の相続の場合が適用場面です。ステップファミリーにはほど遠い、我が国の現状からは、それこそ、会ったこともない兄弟の相続の場面が想定されますので、この区別には合理性ありと判断します。しかし、これも900条なので、場合によっては改正対象となるかも知れません。
 離婚、再婚カップルが多いため、この適用がある場合が増えるかもしれません。
 なお、これも遺言書で対応できる問題で、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、遺言書さえあれば相続を完全に排除できます。

 さて、本日の本題です。
 今回の法改正、あるいは法改正以前の問題として、少子化の問題があり、「生前、ほとんど縁がなかったのに降って湧いて出たような遺産が転がり込んだ」という棚ぼた的な相続や、多額の借金が出てきたという、相続は増えつつあると思われます。
 また、両親が早くに死亡したため、30代、40代で、2親等が不在で、3親等以下とは疎遠のため、葬儀の実施すら危ぶまれる場合もあると思われます。

 これは実際にあった話ですが、両親が死亡し、それなりに何かの時のために備えようという自覚のあった若壮年の方が突然死してしまい、死亡保険、入院保険にはきちんと入っており、死後の金銭処理はそれらの給付を受ければ、全く問題なかったにもかかわらず、3親等の親戚が離れて住んでおり、日頃の交流がなかったため、それらの事実が全く伝わらず、処理に困ったということがありました。若壮年の死亡給付金は、それなりに多額ですが、何も手続きをしないのでは給付も受けられないわけで、これでは全く意味がありません。

  
 そこで、お勧めしたいのは、1 遺言、2 何かの時に頼める人を作っておくことの2点です。
 遺言書は、遺留分の制限はありますが、亡くなる側の意思で相続を決定でき、違憲と出た1/2と相続分を定めることもできます。
 また、複雑な相続関係がなく、大した財産がなくても、一から探すと大変なので、遺言を書き、何がどこにあるかヒントを与え、自分の葬儀代はどこから工面できるのか、死亡保険や傷害保険はかけているかなどを明確にするだけでも十分意味があります。遠く離れている親族は全く分からないのですから。

 
 そして、遺言書を書いたのであれば、どこに遺言書があるのか、もしものために誰かに話しておくことが必要です。信用できる相手がいないのであれば、弁護士(信託銀行も同様のサービスがありますが高くて不向きです。)の遺言保管等のサービス、金庫(今時、盗難に遭えば一番に持っていかれやすい金庫に貴重品を保管する人は多くないと思いますが、金庫は大事な物を保管すると思われがちなので、勝手がわからない人でも一番に確認してくれるかも知れません。)等を利用し、もしものための活用をお勧めします。

 
 遺言書は、「争続」の原因と言われますが、自宅の不動産以外にほとんど遺産がない圧倒的多数の相続の場合には、やはり有用です。ちなみに、遺言書は、意思能力が認められる限り最後の日付の遺言が有効となります。簡単に言えば、ボケるまでの間、遺言書は気が済むまで何回でも書き直しができます。
 自筆遺言書の要件は、1 全文自筆 ワープロ不可、2 日付の記載、3署名押印です。封緘は必要ありませんが、しておくケースが多いです。

 ところで、昨今の振り込め詐欺等、高齢者を狙う詐欺が頻発する現状は、高額資産保有層が高齢者に集中し、資金がだぶつき、有効活用されていない現状が背景にあります。戦前であれば「家」で保有し、「家」の中で有効活用された財産が、「個人=高齢者」が保有し、資金が社会に還流していないため起こっている一面があると思われます。
 昨年度決定の孫の教育資金としての1500万円までの贈与税非課税措置だけではなく、同居促進等、贈与税の非課税パターンを拡大し、「使わないお金を使う必要がある世代に移転させる」という、余剰資産の若年層への弾力的な移転が必要です。

 更に、詐欺は特に相談相手のいない高齢者が被害に遭うことが多いことから、老後の資金のために貯めた資金が、投資詐欺、博打詐欺(競馬詐欺、ロト6詐欺)等で失われることがないよう、願わくば、高齢者一人一人に、日常的な相談ができる環境が確保されるような、まだまだ元気なシルバー世代が活躍・交流する場づくりの促進を、行政に希望したいところです。




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