家族法改正とその対策 その2

投稿日時 2013-11-04 | カテゴリ: 時事問題

 長くなりそうなので、2つに分けます。


補足1・生物学的見地と家族法 〜流動化する実子の定義

 今後、家族法改正論議の中で、合わせて改正要望が出されるのが必至なのが、代理母出産や父死後の妊娠(死亡前の不妊治療等で採取した精子を使い死後妊娠出産すること。妊娠後死亡の場合を含まない。)の問題だと思われます。
 社会的責任・義務は、生物学的な親子関係から生じるものではないというのが、現行の家族法の立場です。代理母の場合には、父が認知し母とは養子縁組若しくは特別養子縁組により、法的な親子関係を作ることになり、死後妊娠は当事者死亡の壁があり、死後認知の余地もなく現行法上親子関係を認める余地はありません。
 これを解消する法改正の余地があるとすれば、死後認知の適用範囲を広げることと、親子関係を、民法だけではなく規則や施行法による準用の余地を残し(具体的には「大臣の定めるところによる」の文言等を入れる)、時代時代の出産技術の進歩に対応し、親子関係を認める余地を作ることです。
 極論からすれば、家族法は、社会的責務を負える親が子を育てるべきという趣旨で成立しているわけですから、それに相応する責務を負えると認められる事情があれば、弾力的運用もできるはずなのです。
 死後妊娠(これはすでに裁判例あり)、死後卵子(この事例は知らない)の利用は、今後の技術開発によっては途方もない相続問題を秘めるため、必ず期間制限が必要で、その期間制限は時代時代により変化させなければならないものになるはずですが、テクニック的な限定を除けば、「自分の子を育てる」「自分の財産を自分の子孫に残したい」という親や被相続人の理念は、貫けるのではないかと思います。


補足2・養子について

 九州の慈恵病院の赤ちゃんポストは、社会に現実に内在し、かつ主に道徳的観点から、事実も存在も否定されるべき問題を現実的に解決する画期的な対策だと思います(注・子の養育が困難な場合には乳児院、児童養護施設で子どもを受け入れるため、公的な受入体制も実はあります。また、養育のサポートが本来的役割となっており、養子縁組を積極的に行うわけではありません。ですが、子育てが困難な場合には乳児院や養護施設に相談することも有効です)。
 他方、最近、特別養子制度に関し埼玉の病院を巡る詐欺事件が摘発されました。

 我が国では、昭和55年の家族法大改正の際、特別養子制度ができましたが、活用例はそう多くありません。
 特別養子を成功させるには、1、6歳未満の子で、父母が20歳以上で(但しどちらかは25歳以上)、血縁関係が完全に切れるという、特別養子の制度が周知されること、2、子の受け入れニーズが一定以上あること、3、特定の組織に、若しくは特定のあっせん機関に特別養子適格対象者が常時一定程度存在することが必要だと思われます。
 世の中には、子どもが欲しい夫婦もあり、逆に子どもが育てられない親も多いはずで、現実には年間人工中絶件数は1万件以上は確実にあるのに、うまくそれが機能しない。
 少子化の折でもあり、なかなか悩ましいことだと思います。
 
 私としては、特別養子の要件の緩和が必要な時期に来ているのかと考えます。
 今回の家族法改正で、親子関係も改正するのであれば、特別養子も改正対象にして欲しいと思います。

 ところで、ロシアでは孤児院がたくさんあります。以前、チェチェンにモスクワの孤児が集団で移住したという史実を読んだ際に、どれだけ孤児がいるのかと不思議に思ったものですが、孤児の国外養子縁組禁止のニュースで、ロシアでは共産主義の名残りで、育てられない子は社会で育てるということが一般的になっていると知り、なるほどと思いました。
 ロシアほどではないにせよ、未婚の女性が子を産むことが、また信頼できる夫婦に子どもを託すことが一般的になれば、すなわち、特別養子制度が社会的に信頼できるほどの基盤とニーズを備えれば、大量の水子も発生せず、また少子化問題も多少は、解消されるのではないかと思います。

2013.12.11補足
今日、最高裁で、一方に性同一性障害により性別変更があった夫婦の子を嫡出子として認める決定があったとの報道がありました。
 婚姻期間中の嫡出推定が及ぶとの文言解釈と、また家族法の社会的責務を負える親が子を育てるべきという趣旨からすれば、今までの流れを踏襲した結論かと思われます。
 この最高裁判例が出たことで、性別変更して実現した父または母の役割の中で、子育てをする道が更に広がるわけですから、この種の問題を抱える方にとって意義ある判例と考えます。
  先日の家族法改正は、「同じ被相続人を親とする子同士の相続の平等」だけのための限定的な改正になってしまいましたが、この判決は、道徳観により、なかなか法改正が進まない分野において、生物学的な親子関係はともかくとして(嫡出否認の訴えでもないのに)嫡出否認の要件をもって、嫡出推定の原則そのものを否定するような限定的解釈を取らなかった点、評価できます。

2014.3.31
ドラマ・明日ママがいない に関して
さて、珍しく児童養護施設のドラマがありました。養護施設は難しい環境に育った子どもたちが多く在籍するため、行く大人も気を使うのですが、意外にいる子供たちは大人びているなというのが、実感です。
養護施設について社会的認知度が高まるのは、子どもにとっても施設にとってもいいことではないかと思います。
 というか、深刻な虐待になるくらいなら、その手前で、児童養護施設を利用できる、利用したいと思えような体制になってもらいたいと思います。

 世の中の子育て世代の親もいろいろ事情があるわけで、一時的に子育てができなくなることだってあります。また、残念ですが、子どもはいるが子育て能力が欠如に等しいのではないかという親(ネグレクトなど)もいます。
 子育てができない状態を単なる親への非難ではなく、ありのままに事実だけを受け止められる社会になれば、いろいろな事情から社会から孤立してしまい、家庭内に向かって行くことで虐待が始まる親の、若しくは社会から独立している環境を利用し虐待を実行する親がいる子の、セーフティーネットになるのではないかと思います。




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