コンクリート構造物を考える

投稿日時 2009-12-05 | カテゴリ: 時事問題

最近事務所のある中央区の、近くの小学校で校舎建替計画が持ち上がっています。
築80年を超える建物は、ぱっと聞いただけでは、壊れそうとか、ボロボロとか思うかも知りませんが、どっこい、これがかなりすごい、堅牢な建物なのです。
耐震性の問題はクリアしており、耐震補強工事の形跡は見られません。また、メンテナンスも行き届いており、コンクリートに、モルタルやペンキできちんと塗装してあります。

現代建築を代表する一人である安藤忠雄の建築物は、あえてむき出しのコンクリートのままにしますが、古い建物なので、塗装してあります。私の個人的意見としては、塗装がある方が、コンクリートに風雨が染みこまず、コンクリート配筋の耐久性が上がるのでかえっていいのではと考えます(もちろん、外防水、内防水の選択肢はあるでしょうが)。

さて、何がすごいかといえば、クラック(ひび割れ)がないことです。
平成でも昭和でも戦後の建物であれば、クラック(ヘアークラック)の一つや二つは、必ずあるのが普通です。
下手すると、築浅建物で、柱と壁のつなぎ目にヒビが入っていたりします。(これであっても、すべてが建物の耐力に直接影響するものではありません)
軟弱地盤が多く、地震の揺れも比較的大きくなる、中央区のこの地にあって、経年による多少のクラックは付きものいうべきで、たとえば、これが訴訟の対象になることはまず考えられません。

 建物内部は、大梁(900?×600?程度?)が、1間1820?程度の等間隔で入っており、床も丈夫でスラブ厚(コンクリートの厚さのこと)も十分に確保されているため、下に響く感じがありません。
 構造計算を根拠にしているわけではないので、正確ではありませんが、今の建築基準法に匹敵する程度若しくはそれ以上の強度を確保する大梁、床組の組み方なのではないかと思われます。

 ここまで、クラックが少ない原因は、きちんとした太さの配筋が細かく入り、またコンクリートの型枠工事も丁寧な仕事がなされたこと、梁が太く、数が多いなど、複合原因があると思われますが、配筋工、型枠工、いずれも、腕のいい職人さんが、丁寧に仕上げた仕事の成果、まさにgood Jobであるのも事実です。これは高く評価されるべきです。

 大手のゼネコンが、100年コンクリートをキャッチフレーズに売り出していますが、昭和の初期以前のコンクリート建築には、確かに100年以上の耐久性を持つ建築物が建築されたのです。

 先日教育委員会からの文書で、この建物に関して「雨漏りがある」「ひび割れがあったが今まで修繕してきた」などと指摘し、「だから建て替える」とありました。
 しかし、窓などのサッシの取り合い部分(つなぎ目のこと)のコーキングや、屋上防水シートは、もともと耐久年数があり、だいたい10年に1回程度塗り直すのは当たり前で、コンクリート建物で、雨漏りを理由に建て替えるなどというのは、建築を少しでもかじったことのある者が聞けば、あり得ない話です。
 同様に、80年の年月の中ではひび割れはあるのが当たり前で、ひび割れを補修しても表面だけのヒビ割れでなければ塗っても塗ってもヒビが浮いてくるのが、普通です。コンクリート劣化によるコンクリートの剥離が目視で確認できない現状の方が、奇跡的なのです。
 高度成長期以後の大量生産でのコンクリート建物の中で育ってきた者としては、壁に多少のクラックが入るのは当たり前で、これを理由に建て替えるのはどうも解せません。
 このような文書を配布することを容認するオブザーバーの設計事務所の見識を疑いたくなるのが、弁護士としての率直な本音です。
 建て替えの是非は、予算計上のタイミング等他の事情もありますので、ここでのコメントは避けますが、これらをもって建替理由とするのは、昭和一ケタの80年前に、この建物の建築を手がけた人々に対して、それはないのではないでしょうか。

 この日本では、毎日たくさんの建築現場で、多数の職人さんたちが働いています。配筋工(コンクリートの強度を確保するための鉄筋の配置する職人)、型枠工(配筋されたところに、コンクリートを流し込み、コンクリートを固める職人)は、工事現場でも、どちらかと言えば、地味な職種ですが、木造、コンクリート造、どちらの場合でも、建物の構造にかかわる大変重要な工程部分で、完成後に現場を見れば、電気工や左官などと比べ、出来のよしあしがはっきりわかる工程でもあります。

 この建物は、使用したコンクリートの質もあるのでしょうが、配筋工、型枠工の丁寧な仕事によりできたもので、昭和初期の日本の職人技の水準の高さがよく現れているのではないかと思います。
 中央区の郷土資料館で、ちょっと前まで「匠の町」という企画展が開催されていましたが、昭和一ケタの時代に、実に80年後の現在でも堅牢建物として存続する「いい建物」を建てる技術があったこと、そういう配筋工、型枠工がいたことを、私はちゃんと評価していいと思います。

 ちなみに、築後のコンクリート建物で、構造上問題としなければならないクラックは、赤さびが出ているなど、コンクリート内部の配筋がさび付いている場合などです。
 住宅の品質確保に関する法律で欠陥とされるクラックは、結構大きなひび割れです。普通のクラックは問題になりません。
 逆に言えば、建築現場で、クラックが完全にない建物を造ることを要求されることは芸術作品でもないかぎりは、まずありません。あの安藤忠雄の淡路夢舞台(巨大コンクリート建築物ですね。)でも、完全にクラックを排除できていないし、私が、2008年3月に歩いた限りでも、コンクリート勾配(設計ではなく、型枠の失敗と思われます)に失敗し、雨水が溜まり排水されていない箇所がありました。たかが型枠、されど型枠で、やっぱりそれなりに難しいのです。

築80年でクラックがほとんどない建物のすごさを、わかっていただけたでしょうか。




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