防災の日に向けて ・・・・阪神大震災の教訓その1

投稿日時 2007-08-16 | カテゴリ: 時事問題

防災の日に向けて その1・・・・阪神大震災の教訓

阪神大震災では、地震を原因とする火災が発生し、12時間以上経過しても鎮火されなかったことは知られています。しかし、地震特有の事情により、通常の消火活動ができなかったこと、そのため、火事が容易に燃え広がったことは、あまり一般的に認識されていないように思います。
ここで、防火という観点から、震災当時神戸市灘区に住んでいた私の経験から、日頃の備えについて、コメントしたいと思います。

1 延焼の危険の増加
まず、木造住宅の特色として、防火構造を有する外壁が破損したら、木材がむき出しの構造となります。鉄骨作りでも、木部は意外に多く、外壁が壊れたら、木材がむき出しの状態となります。

つまり、建物が全壊しなくても、外壁が壊れ、外装が破損したら、周囲から発生する火事に弱い構造となってしまいます。
震災では、火災から6時間以上経過した後で、延焼により、町内焼け野原になったところもあります。

関東大震災の後には、火事に強いと、外壁に銅板を貼ることがはやったようですが(東京都中央区には、ところどころに、そういう造りの住宅が残っています。)、延焼の点では、地震によって剥離する可能性があるモルタルよりも、(水切り部分をどの程度開けているかにもよりますが、)難燃性の壁を接着させるサイディングの方が、防災観点からは優れているのではないかと、思いますが、サイディングも剥がれたら同じことなのでしょう。
とすれば、問題は、2ということになります。

2 取り得る消火活動の限定
震災の際には、消火活動が通常のようには行われません。
  
神戸特有の事情だったのかも知れませんが、水道が止まると、河川の水や、学校のプールの水からしか消火ができず、どちらも水量が豊富ではないので、ホースから勢いよく流すほどの水が確保できていなかったように記憶しています。
(もっとも、あの日に、長田ほど大火ではありませんが、近所でも火事は長時間続いていましたが、近所では消防車の出動を一度も見ず、消防士さんが、建物全体が既に燃えさかっているマンションの外廊下を生存確認に走り回っている姿と、消防団の人がホースで消火している姿だけしか見なかったように記憶しているので、道路事情や、人員不足その他で、消防が機能していなかったこともあるかも知れません。)
本来であれば、絶対に延焼しないはずのチョロチョロした炎であっても、あの日は、なかなか消えませんでした。
 
つまり、消火は、放水による消火ではなく、延焼防止が中心でした(江戸時代の延焼防止を目的とした家屋破壊による鎮火活動を想像してください)。
といっても、堅固建物が多く、破壊もままならず、結局は、火の勢いが大きいと、炎から上がってくる火の粉を止められず、延焼が広がったのです。
  
では、火の延焼をとどめたのは、何だったのか。

当日の私の見たところでは、広い道路で周囲が囲まれたブロックに火がついたらブロックのほぼ全部の建物が火事になっていました。だから、ブロックの端や角にある建物から道を越えての延焼を止められるかどうかが、問題だったのです。
 
それは、角にあった(ブロック全体が焼け野原になると、ブロックの端などから道をはさんだ隣のブロックの建物に延焼する。)、大きな常緑樹だったり、鉄骨スレート、あるいはコンクリート造りの建物で、高温に強い針金入りの窓ガラスサッシを使用した建物でした。
 庭の生け垣や、木は、なかなか燃えにくく、燃えても火の粉をあまり出さずに、くすぶるので、火事のいわば防波堤になります。私の住んでいたところは、斜め隣のブロックまでは焼け野原になりましたが、角に木がうっそうとした家があり、そこで、火事が食い止められました(もちろん、その場にいた多くの人が火の粉を消しての消火活動をしたことも大きな要因です。その木もその家も、焼けこげたので、結局解体となりましたが、私は、今でも、当時住んでいた家が燃えなかったのは、あの家と木々のおかげと思っています。)。
 家の周りに常緑樹を植えるのは、意外なところで、効用があるのかもしれません。

 また、聞いたところによると、長田区の一角の賃貸用建物では、大家が医師か歯医師かで、泥棒よけにと、窓ガラスのサッシを全て針金入りの丈夫なものにしていたため、通常のガラスよりも耐熱性が高く、窓ガラスが割れなかったため、火事を免れ(コンクリート建物の場合には、窓ガラスが割れ、割れた窓から火が入って、建物が火事になります。)、結果、この建物からの延焼がなかったため、その建物に続く一角が火事を免れたことがあったそうです。
 
マンションは、コンクリート造りなので、木造の戸建のように外壁剥離による延焼の危険増加は考えなくていいですが、密閉性が高い構造上、一旦火がつくと火力が大きくなり、窓ガラスを突き破って、炎が上がり、マンションがほぼ全棟、全焼したりしました(平時は考えられませんが)。
 窓ガラスを丈夫なものにするのは、防災の点でも有効だと考えます。
  
3 まとめ
 大地震の際には、平時と異なり、放水による十分な消火活動 は、そのキャパ、必要な水量の確保という点からも、期待できない可能性が大きいことから、日頃の備えが必要です。
 その意味で、住んでいる家を、建物が一部倒壊しても、外壁が難燃性の構造を維持できるものにすること、窓ガラスを耐熱性のものにすること、家の周りに常緑樹を植えることなどが、実効的と考えます。


 なお、火事を出さないようにすればいいのではないかと考える人もいるかも知れません。
 しかし、実際に震度7クラスになると、部屋の中の全てのものが、全部跳ね上がり、ぐらぐら揺れるので、部屋の中は物が飛び回る状態で、引火は、火を使っていた人には、防ぎきれない面もあったのではと考えます。私も関東育ちで、年に3回の避難訓練などにより、地震が来たら、火の不始末注意と避難経路の確保というのは、基本的に身に付いていますが、100%の自信をもって、仮に火を使っていても出火しないとは言い切れません。

強いていえば、実践的には、台所やストーブなどの火が燃え移ったら、ステンレスの上にとどまるのであれば、放置し(他に引火しなければそのうち消えます。)、揚げ物等で油を使っていれば、冷めるのを待つ。床、じゅうたんに引火すれば、燃え広がらないうちに、消すことが肝心です。
 火事が広がれば消火が十分にできず延焼することも予想されるので、その家の家財消失だけでなく、がれきに取り残された生命を救うことになるという意味でも、一人一人が、誰もができる初期消火活動をきちんと行うことが特に重要です。
・・・なお、初期消火ができるかどうかは、家人の地震によるケガの程度、物の散らばり具合などにもよりますので、どんな諸条件下でも完全に消火できる自信は、先に書いたように私にもありません。

 消す場合には、消化器、水などで燃焼そのものを止めるやり方と、燃焼範囲より大きい布団などをかぶせて燃焼に必要な酸素をシャットアウトするやり方があると言われています。ある程度の範囲の燃焼があれば、再燃焼を防止するため、燃焼部分を冷やすことも必要です。
 火は、発火温度、酸素(空気爆発を除く。)、燃焼物の条件を満たして、初めて燃焼します。
 地震によるガス管の破損は至る所に生じますので、被災直後はガスのにおいに注意して、火を使用しなければなりません。


 
 地震の備えは、食料と水だけではありません。 
 これから、防災に関することを、いくつか書いていこうと思います。
 
 末筆になりましたが、震災により亡くなった多くの方々に、心より、ご冥福をお祈りします。




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